熟年離婚とは、長期間の婚姻生活の後に離婚に至ることを言います。長期間の具体的な年数に決まりはありませんが、一般的に20年以上であると言われています。
以下の図の通り、熟年離婚は平成以降増加傾向にあり、平成17年にピークを迎え、令和元年も4万件を超えています。
熟年離婚では、妻から離婚を切り出すのが圧倒的に多いと言われています。子どもが自立するなど、大きな出費を必要としなくなったタイミングを見計らって、離婚を切り出すケースが多く見られます。
熟年離婚をする理由には
- 夫婦関係が冷め切っている
- 価値観の違い
- 性格の不一致
- 配偶者の浮気・ギャンブル
など夫婦によりさまざまです。
【参考:熟年離婚の原因|熟年離婚後に後悔しないためにできること】
熟年離婚を考えた時に気になることの一つとして、“熟年離婚後幸せになれるか否か”が挙げられるでしょう。そしてそのポイントとして、離婚後生活をしていく上で困らないだけのお金を請求できるかが大きいのではないでしょうか。
そこでこちらの記事では、熟年離婚で請求できる慰謝料やその他のお金について記載します。
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熟年離婚で慰謝料獲得が見込めるケースと見込めないケース
慰謝料とは、不法な行為によって受けた精神的な損害に対して支払われるお金のことを言います。そのため、単に離婚するだけでは慰謝料の請求はできません。
慰謝料が請求できるのは、相手に違法な権利侵害行為があり、これによって婚姻関係が破綻したという場合です。具体的な根拠法令は民法709条及び民法710条です。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
【引用:民法709条】
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。【引用:民法710条】
では、慰謝料を請求できる場合とはどのような行為があった時なのでしょうか。以下で具体的に見ていきましょう。
慰謝料獲得が見込めるケース
相手方が以下の行為をした場合には、慰謝料獲得が見込めます。
- 不倫・浮気をした
- 暴力などDVを受けた
- 暴言などモラルハラスメント(精神的暴力)を受けた
- 悪意の遺棄(同居しない・生活費を渡さない)を受けた
ただし、自身にも非がある場合には、慰謝料が減額されたり、そもそも請求が認められなかったりするので注意が必要です。
慰謝料獲得が見込めないケース
以下を原因として熟年離婚する場合には、慰謝料獲得は見込めません。
- 性格の不一致
- 価値観の違い
- 信仰・宗教での対立
ただし、上記に関しては相手の言動次第。相手の行き過ぎた言動で結婚生活を続けることが困難となった場合には、慰謝料が獲得できる可能性もあります。
上記理由で熟年離婚を考えている方は、慰謝料獲得について、姉妹サイト「離婚弁護士ナビ」から弁護士に相談されてみてはいかがでしょうか。
熟年離婚の慰謝料相場は50万円~300万円
ここでは、熟年離婚の慰謝料相場について解説します。
【関連記事】
離婚の慰謝料相場一覧と慰謝料を引き上げる重要な証拠
一般的な離婚の慰謝料相場
慰謝料は精神的な苦痛に対する賠償であるため、一概に金額が決まっているわけではありませんが、一般的には下表の金額の範囲内で慰謝料額が認定されることが多いようです。
離婚理由 |
慰謝料相場 |
不倫・浮気 |
50万円~300万円 |
DV・モラハラ |
50万円~300万円 |
悪意の遺棄 |
10万円~200万円 |
【参考:慰謝料算定の実務 ぎょうせい】
ただし、実際の慰謝料額は、婚姻期間や不法行為の内容・程度、婚姻状況などによって変わってきますので、ケースバイケースです。上記の表はあくまで参考です。この枠内に収まらない場合もあるでしょう。
慰謝料が増額するポイント
熟年離婚後の生活を考えると、できるだけ高い慰謝料の獲得を願うのは当然のことでしょう。以下では慰謝料が増額するポイントをまとめましたので、参考にしてください。
増額するポイント |
内容 |
婚姻期間 |
婚姻期間が長ければ、その分慰謝料は増額される傾向にあります。 |
原因発覚後の婚姻生活の変化 |
例えば不倫・浮気を原因に離婚する場合、不倫・浮気発覚前はよかった夫婦仲が、発覚後に悪くなった場合には慰謝料は増額される傾向にあります。 |
相手方の年収 |
相手方の年収が高いほど、その分慰謝料は増額される傾向にあります。 |
請求する側の年齢 |
慰謝料を請求する側の年齢が高いほど、慰謝料は増額される傾向にあります。 |
扶養が必要な子供の数 |
扶養が必要な子供が多いほど、慰謝料は増額される可能性が高まります。 |
上記項目の通り、婚姻期間が長い場合や請求する側の年齢が高い場合には、慰謝料は増額される傾向にあります。
熟年離婚は結婚生活が長期間に亘りますので、特徴として一般的な離婚よりも慰謝料が高額となるケースが多いようです。しかし、相手に問題があっても相当長期間婚姻期間の継続が可能であったという事実から、慰謝料が低額になることもありえます。結局のところケースバイケースであり、熟年離婚=高額な慰謝料という考え方は誤りと言えるでしょう。
DVやモラハラを長期間に渡って受け続け、耐え切れず離婚をする場合や、度重なる不倫・浮気に耐え切れず離婚する場合などは、慰謝料が高くなることが多いようです。
この場合には、長期間のDV・モラハラが立証可能であり、かつそれにより心身が故障したことが立証できれば、離婚は正当な理由があると評価されるでしょうし、相当額の慰謝料が認定される可能性もあるでしょう。
高い慰謝料を請求するために必要な証拠
慰謝料を請求するためには、相手方に不法行為があったことの証拠を提出しなければなりません。
不法行為 |
証拠となるもの |
浮気・不倫 |
・複数回のラブホテルへの出入り写真 |
DV・モラハラ |
・医師の診断書 |
悪意の遺棄 |
・生活費の支払いが無いことが分かる通帳 |
【参考:離婚の慰謝料相場一覧と慰謝料を引き上げる重要な証拠】
慰謝料請求には時効がある
慰謝料は一般的に離婚前や離婚直後に請求します。しかし、離婚してから期間をあけて請求することもあるでしょう。実は慰謝料請求には時効があり、不法行為時から3年間と期間が決まっていますので、注意が必要です。
したがって、離婚の原因となった行為を知ってからすでに3年が経過している場合は、たとえその後離婚に至ったとしても慰謝料請求は難しい場合が多いでしょう。
また、3年以上前のことを原因として突然離婚の申し入れをしても、正当な離婚事由がないと評価されることもあります。
さらに、3年以上の時間が経過すると必要な証拠が散逸してしまい、相手の不法行為を立証することが難しくなります。したがって、離婚原因となる行為が発覚した場合には遅くとも3年以内、できれば証拠の確保が完了次第、何らかの対応を取るべきです。
【参考:離婚の慰謝料相場一覧と慰謝料を引き上げる重要な証拠】
慰謝料以外に請求できるお金
熟年離婚時には、慰謝料以外にも請求できるお金があります。熟年離婚後の経済面を安定させるためにも確認しておきましょう。
財産分与
財産分与とは、結婚中に夫婦が協力して手に入れた財産を分け合うことを言います。
財産分与には、貯金や不動産、車などのプラスの財産に加え、夫婦共同の負債(住宅ローンや自動車ローン等)も対象となります。夫婦の個人的な負債(夫/妻の借金)は財産分与の対象となることはありません。
財産分与に含まれるもの
- 貯金
- へそくり
- 不動産
- 株券や社債などの有価証券
- 家財
- 生命保険積立金
財産分与の割合は基本的には50‐50です。財産分与はどのような割合で獲得できるのか、どのような手続で進むのかなど、詳しい内容に関しては「離婚時の財産分与とは|財産分与で損しないための知識」を確認してください。
夫の退職金
夫の退職金もこれが夫婦共同の財産であると評価される場合は、前述した財産分与の対象となります。ただし、退職金は給与の後払いという扱いで、支給されるのは退職時。離婚時に退職まで期間がある場合には、確実に支払われるという保証はありません。
退職金がすでに支払われている場合には、単なる現預金として残額について財産分与の対象となりますが、支払われていない場合で財産分与の対象とするには、社内規定等に鑑みて離婚時に支払いが見込まれる金額に応じて財産分与の対象となるに過ぎません。
退職金の計算方法など詳しい内容に関しては「退職金はどのように分けられるのか?」を参考にしてください。
年金
平成16年に国民年金法等の一部を改正する法律が施行され、夫婦の一方の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)および共済年金を分割し、もう一方が受け取れるようになりました。
注意するべき点は、『厚生年金基金・国民年金基金』等に相当する部分は対象外ということです。また、年金分割を利用できるのは、結婚中に相手方が自身より多く年金を払っていた場合に限ります。
親権を争う場合
熟年離婚の場合、子どもがすでに自立している場合が多く、親権について争われるケースは低いと言えるでしょう。もし親権を争う場合には、確実に獲得したいものですよね。
基本的には夫婦間での話し合いで済ませたいところですが、折り合いがつかない場合には調停→裁判という手順を踏むことになります。
詳しい内容に関しては「親権をどちらにするか決める時の流れ」を確認してください。
離婚手続の流れ
離婚する方法は、下記の4つ。いずれも最終的には離婚届を提出し、それが受理されなければ離婚成立とはなりません。
協議離婚
協議離婚は、夫婦で話し合いを行い、離婚に合意することを言います。日本では最も一般的な離婚方法で、90%が協議離婚となっています。裁判所は関与しないので、離婚の理由や事情は関係ありません。
協議離婚の手続
離婚届を本籍地・住所地の市区町村役場に提出することによって離婚が成立します。
離婚調停
離婚調停は、離婚をしたい夫婦のどちらかが家庭裁判所へ調停離婚の申立をすることで開かれます。家庭の問題については最初から訴訟を起こすことはできず、訴訟の前に必ず調停の申立をしなければなりません。
家庭裁判所では調停委員が、夫婦双方から事情を聞き、金銭問題や親権問題、養育問題などの離婚条件に夫婦がお互いに合意し解決できるように仲裁してくれます。
離婚調停の手続
話し合いのもと合意できたら、調停調書が作成され、離婚が成立します。
審判離婚
審判離婚は、家庭裁判所での調停が何度も行われたにもかかわらず、夫婦が合意に至らない場合や、夫婦のどちらかが出頭義務に応じない場合、家庭裁判所側が離婚をさせた方が双方のためになると独自に判断した際に、離婚の処分をすることができます。
しかし、審判離婚は2週間以内に当事者から異議申立があった場合、審判の効力を失います。調停で話がまとまらない場合は、裁判を行うか一度離婚を断念するケースが多く、この制度は現在はあまり利用されていません。
審判離婚の手続
審判申立書を家庭裁判所に提出し、審判離婚の申立をします。申立後、2週間異議申立がなければ審判確定となり、離婚が成立します。
離婚裁判
協議離婚でも離婚調停でも離婚成立に至らず、それでもどうしても離婚がしたい場合は、家庭裁判所に離婚の訴えを起こします。その裁判に勝利し、離婚を認める判決を得て初めて離婚が成立します。
裁判離婚の手続
訴状を作成し、夫婦どちらか一方の住所管轄の家庭裁判所に提出します。
後日裁判所が決めた日程で裁判が開かれ、口頭弁論などを経て離婚請求を認めるか、棄却するかが決定されます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。熟年離婚時の慰謝料は婚姻期間などによって変わるため、一概にどれくらいの額と決めることができません。
また、慰謝料を請求する場合には、相手方の不法行為の証拠を揃える必要があります。
もし不倫を原因に離婚することを視野に入れている方は、証拠を掴むために一度探偵に相談してみてはいかがでしょうか。
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